半して、病院の方は美代子にやらせる。長男は何職業を選ぶのも本人次第、気まゝに勉学させて、成人後、財産を分けて独立させる、という大浦博士の思惑なのである。
 この話は、衣子がなかなか乗ってくれない。そこで私に一肌ぬいで、うまくまとめてくれないかという相談なのだ。
「衣子夫人の信望を一身に担っている博士に説得できないことが、私なんかに出来ませんや。私なんか親類縁者というわけで出入りはしているものゝ、親身にたよられているわけじゃアなし、第一、それだけすゝんでいる話を、今まで相談もうけたことがないのだから」
「そこが君、私が信望を担っているといったところで、私が当事者だから、私には説得力の最後の鍵が欠けているのさ。あれで、君、君の世間智というものは、衣子さんに案外強く信頼されているんだぜ。女というものは妙なところに不正直で、これは自信がないせいだと思うんだがネ、ひどく親しく接触しているくせに、その人を疑ったり蔑んでいたり、疎々《うとうと》しくふるまう相手を、内々高く買っていたり、君の場合などがそうで、案外高く信頼されているのだよ」
 と大浦博士は言った。
 博士は人に接触する職業の人であるから
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