、人間通で、人の接触つながりに就ての呼吸を心得ている。それで私の場合も、衣子と私とのツナガリにわだかまる急所のところを、こうズバリと言ってのけて、つまりは私の説得に成功した。衣子が内々私を高く評価しているか、どうか、むしろ博士はそうでないことを知っているから、アベコベのことを言った。私は博士の肚をそう読んだが、往々にして、こういう策のある言葉が実は的を射ていることがあるもので、人間通などゝ云ってもタカの知れたもの、人間の心理の動きは公式の及ばぬ世界、つまり個性とその独自な環境によるせいだ。
 博士のオダテは見えすいていたが、それが案外的を射てもいるように思うことができたから、私は内々よろこんだ。要するに、私はウマウマとオダテにのったわけで、私はつまり、こういう甘い人間である。こせっからくカングッたあげく、要するに、向うの手に乗っているわけなのだ。
 けれども私はよろこんで、じゃア、まア、ひとつ、ともかく私から話してみましょうなどゝ、つりこまれたフリをした。
 そこで私は衣子に、
「まア、なんだなア、私はどうも、大浦先生のお頼みを受けてこの縁談のことを頼まれたわけだけど、大浦先生には大恩
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