つまり、アイツは気立のよい奴だ、腹に一物あるようなところもあり、そゝっかしい愚か者だが、案外心のよい奴だ、そう言ってくれる。そのうちには、案外あれで頭もよい、となり、アイツは却々《なかなか》シッカリした奴だ、手腕もある、だんだん、そういう風になる。私のモウケは要するに、それだけでよかった。こうして、衣子の周囲に、おのずから私の方へ向いてくる傾斜をつくることが大切なのである。
 ある日のこと、大浦博士の自宅へよばれたので、出向いてみると、私に一肌ぬいで貰いたいことがあるという。
 大浦氏は、富田病院の財産に目をつけたが、女房子供もある身のことで、衣子と結婚するというわけにも行かぬ。衣子が又、したゝかなところがあって、金銭上のことになると、色恋とハッキリ区切って、金庫の上にアグラをかいているような手堅いところがあった。
 大浦博士の末弟は大浦種則という私大出の婦人科の医学士で二十八、まだ大学の研究室にいる、これを衣子の長女の美代子という十九になる女子大生とめあわせることを考えた。種則を富田病院の入聟《いりむこ》にする。衣子の長男はまだ十四で、独立するまでには時間があるから、富田家の財産を折
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