ったのである。つまり、冷酷で、残酷であった。
この結果は、私が金龍の出入り差しとめを食うという哀れな自爆に至ったばかり、私はもはや嫉妬どころの段ではなかった。
私は死にますと言った。そのとき金龍はキリキリと眉をつりあげて、
「死になさい。私の目の前で、死んでみせなさい」
私は意地にも死んで見せますと言いたかったが、言えなかった。私はゾッとした。ノドを突こうと、毒薬を飲もうと、私がのたうって息絶えるまで、眉ひとつ動かしもせず、ジッと見つめているのだ。見終ると、フンとも言わず立去って、お座敷で世間話でもしているだけだ。私は、すくんだ。
私は魂がぬけてしまった。ふらふら立上って、二階へ登って、若い妓の着物のブラ下っているのを、一時間ほども、眺めていたのである。そのうちに、もはや一つの解決しか有り得ないと自分の心が分ったので、私は降りてきて、両手をついて、あやまった。
「心を入れ換えます。いゝえ、心を入れ換えました。今後はたゞもう、誠心誠意、犬馬の労をつくして、君の馬前に討死します。毛頭、異心をいだきません」
君前に討死します、と言ったので、一緒にいた若い妓が腹をかゝえて笑いころげて
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