それだけなのだ。
 私は三人の女を追いまわしていた。いずれもジロリの女であった。
 一人は四十一の未亡人で、亡夫の院長にひきつゞいて病院を経営していた。亡夫が私の従兄で、その関係で、病気のたびにこの病院のヤッカイになり、家族はもとより、金龍も入院したことがあった。あげくに院長と関係ができて、このときは辛い思いをしたものである。このときばかりは、特別、嫉妬に苦しんだ。病気のたびに世話をかけるばかりでなく、金銭のことでもかなり迷惑をかけており、ヒケメを覚えて卑屈になっているときは、口惜しさがひどいのだろう。嫉妬といっても、立場は奴隷にすぎないのだから、ゴマメの歯ぎしりという奴だ。
 ウップンを金龍にもらすわけに行かないから、このとき私はひどいヘマをやった。院長のところへ行って、金龍は私のものだというようなことを、それとなく匂わしたのだ。
 院長は豪酒と漁色で音にきこえた人物だが、金と地位があり、遊びは自在で、妾をたくわえるというような一人の女に長つゞきしない性質であった。金龍は奥さん同様のジロリ型で、だいたいこういう型と結びつき易い男であるから、要するに男としても、私にとっては苦手の型であ
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