ア。原稿料だって、二千円、もらった月もあるんだもの、もっとも、半分しか払わねえや、そんなの、ないじゃないか、然し、オレの社も、原稿料の払いが悪いから、オレ、まったく、赤面するよ、なア」
「イヤ、この男は悪気がないんです。一風変っているだけで、なんしろ、心臓まで、右の胸についていて、ツムジが八ツもあって」
 花田が口をいれて、とりなすと、
「オイ、よせよ、はずかしいよ、なア、オイ、とっても、残酷だよ」
 顔をあからめて、必死に恨んでいる。
 国際親善の大紳士も、直接応待の手段が見つからなかったようである。そこで、キッと、ひきしまると、
「気を附けえ!」
 と、大喝一声。さて、気をつけの一同をジロリと見渡して、
「オレは一週に一度だけ、社へでる。オレの代りに、秘書のこれが、毎日、見廻りにくる。オレだと思え。この部屋の汚さ、暗さは、なんだ。居は心をうつす。明朗でなければ、ならんぞ。第一着手として、部屋の壁を、白く、明るく、塗りかえる。こゝだぞ。オレのやり方は、いつも、そうだ。文化も、国際親善も、この精神でなければならんぞ。貴様らも、オレのような第一人者たる国際民間使節の下に、文化国家建設の仕
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