、まさか、横丁まで、つきあいたくはねえだろうな」
「つきあいたか、ねえよ。つきあえったッて、オレ、逃げちゃうもの。オトトイの晩も、なア、オレ、逃げちゃッたもん。その前のときさ、オレ、アノコと一しょだもの、逃げちゃいけねえし、あゝいう時は、いけねえよ。たかられちゃってさ、オレ、オカネが一文もねえんだもの、アノコが千五百円とられやがんのさ。仕方がねえから、オレ、金歯ぬいて、売ったんだ。変だよ、なア。金歯だって、歯にくッついている限りは、やっぱり、カラダの一部分じゃねえか。だからさ。お前。金歯を売るなんて、やっぱり、身を売ることじゃねえか。つまり、オレ、パンパンやっちゃったと思うんだ。パンパンやって、アイツに千五百円返してさ、つまらねえじゃないか、ホラ、口んなか、ここんとこさ、こゝから、貞操がなくなっちゃって、オレ、不愉快なんだ。バカにしてやがるよ、なア、オイ」
「お前は、なんて、名前だ」
「オレは、詩人だけど、知らねえかな、知らねえだろうな、知ってりゃ、偉いよ。土井片彦ッて名前は、殆ど、人が知らねえからな。然し、オレだって、持ちこみ原稿ばかりじゃねえもの、頼まれた原稿だって、書いてるよ。な
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