んとしておる。同様の事の次第によって、君にも、景気よく、原稿料を払う。どうしても、本日、使いきってしまわねばならぬ残金があってな。エート、原稿料、赤木三平、一万一千円也、これは多すぎる」
「コレ、コレ、五ヶ月分、たまっているのだぞ」
「そうか。然し、端数は切りすてゝ、一万円、即ち耳をそろえ、あと、一万五千円ほど、残っておるから、これより、宴会をひらく。コレ、花田ウジよ、泣くでないぞ。切腹は、とりやめじゃ。ワガハイが、ココロよく社長を退く。それだけのことじゃ。人数が多いから、宴会は、カストリでやる。足がでたら、三平のフトコロに、一万円ある。者共、遠慮致すな」
 と、カストリ横丁の一軒を占領して、大宴会を催した。
 然し、社長をやめりゃ、いゝんだ、と云ったって、そう簡単にやめられるものではない。たった二十万円で、雑誌を売り渡すようなものだ。じゃア、どうすりゃ、いゝんだ。カンタンだ。二十万円、ありゃ、いゝんだ。
 花田は、発頭人であるから、身をきられる切なさである。顔にはださないが、社長の先生の心のうちも、よく分るのだ。なんとしても、二十万円、ほしい。とても、泥棒の勇気はないから、あとの道は
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