は、オレは、先天的なんだと思うんだ」
「まさに、片彦の云う通りじゃよ」
 と、社長の先生、悠々と、然し、いさゝか、悲痛である。
「要するにだよ。オカネというものがなければ、オレが社長であるという意味はない。しかるにじゃ。オレは今日まで、借金のために奔走これつとめ、辛くもなにがしの借金をカクトクすることによって、この椅子にこうして坐って、かくの如くに足を机の上にのッけていたわけじゃよ。身にあまる苦痛であったよ。借金は、苦痛じゃよ。それにも拘らず、なに故に、ワガハイがかくの如くに社長であったかと云えばだな、つまり、自分個人の借金をカクトクせんとすることは、さらに苦痛である。わが社のために借金をカクトクすることは、いくらか苦痛が少いのだな。そこに於て、即ちワガハイは、苦痛少く借金をする、どっちみち、ワガハイは借金によって生活せざるを得ん宿命にあるから、マア、左様なる事の次第によって、ワガハイが今日に至るまで社長であったワケである。ワガハイは社長の椅子にテンタンであり、運命に従順であるから、汝らも、嘆くでないぞ」
「イヤーッ、社長! 先生! オレが、もう、ここで、腹を切る。オレは死に場所を探し
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