長の先生へ目を転じた。
花田は魂を失い、施す術を失い、たゞもう茫然、ザンキ苦悩、刑死せるキリストの如くにうなだれている。
社長の先生は、いったん親善使節の紳士に奪取された帰属不明の椅子にもどって、靴をぬいで、足を机に乗っけて、両手を後クビにくんで、天井をにらんでいる。
「ウン、やっぱり、なア。今となっては、あんなカッコウしてみるより、仕様がねえだろうな。だけどさ、ウチの社長は、あれが年ガラ年中のカッコウなんだから、こりゃ、つまり、先天的、没落者の姿なのかも知れねえなア。二十万円、有りゃ、いゝんだろう。二十万円ぐらい、オレがだしてやりたいけど、もう、金歯はねえし、もし、みんなが女だったら、オレが命令を下して、そろってパンパンに出動して、二十万円ぐらい、一週間で稼いじゃうけど、ママならねえよ、なア。でも、なア、ワッハ、悲しいよ、なア、あの姿、ワッハ、アレ、二十万円ないという姿なんだ、ひでえよ、なア、ワア」
「なにィ」
社長の先生、ジロリと目をむく。それだけである。さすがに、顔色も変らない。
「エッヘッヘ。きこえちゃったか。気の毒だよ、なア。だけど、先天的に、どうも、仕方がねえや。問題
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