の第一流の大新聞が連載小説を依頼してくれたからで、近頃では新聞の連載などではカストリもろくに飲めないけれども、そのころの新聞連載、それも彼の依頼を受けた第一流の新聞ともなれば、生活は一気に楽になる。
庄吉は孤高の文学だのストア派などゝ言はれ当人もその気になつてゐたが、実際の心事はさうではなくて、何よりも金が欲しい。貧乏はつらいのだ。そのくせ武士は食はねど高楊子、金なんか何だい、たゞ仕事さへすりやいゝんだ、静かな部屋、女房子供に患はされぬ閑居があれば忽ち傑作が出来あがるやうな妄想的な説を持してゐる。
彼は然し実際は最も冷酷な鬼の目をもち、文学などはタカの知れたもの、芸術などゝいふと何か妖怪じみた純粋の神秘神品の如くに言はれるけれども、ゲーテがたまたまシエクスピアを読み感動してオレも一つマネをしてと慌てゝ書きだしたのが彼の代表的な傑作であつたといふぐあいのもの、古来傑作の多くはお金が欲しくてお金のために書きなぐつて出来あがつたものだ、バルザックは遊興費のために書き、チエホフは劇場主の無理な日限に渋面つくつて取りかゝり、ドストエフスキーは読者の好みに応じて人物の性格まで変へ、あらゆる俗悪
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