が、順番制度といふやうなもので才能の分配が行はれるやうになれば、なるほど楽であらう。秩序とは万事かくの如きものであり、才能の自由競争は組合違反とくる。芸術の世界に於てはかゝる秩序の馬鹿らしさが分るけれども、一般社会に於てはそれが分らぬのである。
放恣とてもさうである。人を裏切る者は自らも亦裏切られる。権謀術数、可能なあらゆる悪策鬼略に自ら傷き、裏切る故に裏切られ、戦国時代の豪傑どもも保護の上で束縛され安眠したいと思ふやうになる。どんな卑劣な手段を用ひても勝てばよいといふ宮本武蔵の剣法が衰へ、形式主義の柳生流が謳歌せられるに至るのも、豪傑どもが剣道本来の激しさに堪へ得なくなるのである。かくて虚妄の正義は誕生する。
ゼネストが他に迷惑を与へることによつて反感を買ふ。然し要求の当然な権利は認めないわけに行かない。エゴイズムはエゴイズムによつて反逆され復讐されるのである。道義の頽廃を嘆くことのエゴイズムも同じこと、如何に嘆いてみたところで夫子《ふうし》自らの道義なるものゝエゴイズムをさとらなければ笑ひ話にすぎないだらう。闇の女も出家遁世も単にエゴイストにすぎないが、要するにエゴイズムはエゴ
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