一流のしつっこい、熱心な探索によりまして、ようやくのことで、足利将軍の逃げまわっている姿を見つけ、つかまえて、ニッポンに布教を許してくれるようにと頼んだのであります。こいつは当時にあっては大変な仕事であったでありましょう。とにかく、ザヴィエルはそれをやってのけたのでありますが、こんなところにもカトリック僧の実践力をうかがうことが出来るのであります。
ところで、このザヴィエルの布教の許可の願いに対して、足利将軍のとった態度というのがはなはだ妙なのであります。ザヴィエルはその時に乞食みたいな恰好をしておりました。一見したところ、如何にも見すぼらしい僧侶でありまして、どうもこれが高僧とは思えない。全然、威厳というものがないのであります。これには将軍ががっかりした。ですから将軍のほうは、
「お前は、おれに対してそういうことを頼んでいながら、そもそも贈り物というものを持って来ているのか?」
と問いただしました。ザヴィエルは、
「贈り物は山口においてあります。ここまでは、あまり長い旅行だったものですから、持って来ていない」
と答えたのであります。将軍はそれを聞くと、
「贈り物がなければだめだ
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