に見覚えはありませんか?」
と聞いたのであります。
それを聞いて、ザヴィエルはびっくりしました。一度もこのニッポン人とは会ったことがない、従って顔を見たことがないのでありますから、驚くのも無理はありません。そこで次のように答えたのであります。
「いや、あなたの顔は見たことがありません」
この答を聞いて、フカダジは大笑いをしたのであります。そして自分の寺へちょうど来ていた、ほかの禅僧のほうを向きまして、
「この人は、おれの顔を見たことがないなどと云うが、大変な嘘つきだよ」
というようなことを云ったのであります。話しかけられた禅僧もフカダジの云うことが分ったような顔つきをしていましたが、ザヴィエルには納得がいかないのであります。これは納得のいかないのが当然なのでありまして、ザヴィエルは、
「これはおかしなことを聞くものだ。私は曾つて嘘というものをついたことがない。今も嘘をついた訳ではないのだ。どうして、私を嘘つきだなどと云うのです」
となじったのであります。
フカダジはそう云われて、こんな答をしております。
「あなたは、そんなに白っぱくれていられるけれども、今からちょうど千五百
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