坊主をやっているのだから、殿様の死んだ時には、自分としては、お寺へ葬らなければならぬ。それは仕方のないことなのだから、そいつだけはどうか勘弁して呉れないか」
というようなことを云って頼んでいる。
そうするとアルメードは、
「それは不可《いか》ん。貴方は、名誉とか地位とか、そのようなものは、すべて捨ててしまいなさい。すべてを捨てなければ、洗礼を授けるわけにはゆかない」
と判っきり答えています。それでとうとう、ニンジは洗礼を授けて貰えなかったのであります。アルメードは帰国し、再来し、さらに三度目にサツマへ参りました時には、ニンジは死んでおったのでありますが、死ぬ時に、洗礼を受けないで死ぬのはまことに残念だ、という遺言のあったことをアルメードが聞いていることが、伝わっております。
この禅僧とカトリック僧侶との交渉は、もう一つあるのでありますが、フランシスコ・ザヴィエルは、ニンジに会ってから後に豊後《ぶんご》へ行きました。そうして、フカダジという禅僧と会っているのであります。この時に、フカダジは、ザヴィエルの顔を見まして、
「あなたは何処かで見たことのある顔ですが、如何がですか、私の顔
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