まして、仏教の知識が何一つなかったと思われる弥次郎にも似合わない、人間観察の正しさを見せております。
また、ザヴィエルがポルトガルの船に乗ってニッポンに行こうと申しました時に、弥次郎はそれに答えて、――
「ポルトガルの船乗りというやつは非常に好色で、ニッポンの港へやって来てもとても評判がよくないから、あんな船へ乗っていったら、キリスト教の名声を落します。ですから、シナの船に乗りなさい」
――と云って、シナの船に乗せたということであります。こういうことも、ニッポンの歴史家は、弥次郎がこんなことを云ったことは一種の伝説だろうと軽く片づけていますけれども、私はそこに弥次郎の本音があるのだろうと思います。弥次郎は、非常に遊び人的な風格を持った人間でありますから、そういう船乗の生活というものがニッポン人に反撥されるということは、非常によく、実感をもって、知っておったのだと思われるのであります。
この弥次郎に伴われまして、フランシスコ・ザヴィエルはニッポンに参ったのでありますが、ニッポン人は大歓迎をいたしたのでありまして、初めのうちは押すな押すなの繁昌というわけであります。何しろ七人ほど黒ん
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