ごろ大流行のスリは、たいがい子供の仕業という話であるが、何ヶ月も練習して、十二人も殺してたった十六万ぬすむ、同じぐらいの練習でスリの方がもっと稼ぎがあろうし、後もつゞくというものであるが、子供に及ばぬ智慧のない先生である。
インフレ時代というものは、怠け者とか子供とか、正常では生活能力のない人間が生活力がある仕組で、ちょッと右から左へ物をうごかすと、勤労者の一ヶ月の給料ぐらいが、すぐもうかる。正常時の正常人の智慧はもう散々の敗北で、子供の智慧におよばないという次第である。
先日、帝人の江口榛一が酔っ払って帰れなくなり、新宿駅前の交番へ泊めてもらって、居合した浮浪児とだき合って一夜をあかしたそうであるが、翌朝帰るときに、浮浪児が、オジサン電車賃ないんだろう、これやるから持ってきな、といって十円くれたそうだ。
江口君大感激して、お前はいゝ子だなア、どうだ、オジチャンの子供にならないか、ウチへこないか、というと、交番の巡査がふきだして「江口さん、浮浪児の五、六人養っておくと、あなたは寝ていて食べられますよ」と言ったそうだ。
子供の方が、どうやら生活力のある御時世である。住むに家なく着
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