。戦争といえばそれ一億一心、民主主義といえば、ただもう民主主義、時流のままに浮動して自ら省みる生活をもたない便乗専一の俗物に限って、道義タイハイなどと軽々しく人を難ずるのである。
 そのよって来たる惨状の根本を直視せよ。道義復興、社会復興の発想の根柢をそこに定めて、施策は誠実に厳粛でなければならぬ。
 毎日十時四十分かに品川駅へシベリヤからの引揚者がつく。マイクにニュースに、やたらとセンチな感動的情景を煽る。そして、ただ、それだけのことではないか。寛永寺の一時寮へあずける。そして、ただ、それだけではないか。やがてその誰かがパンパンとなり、親子強盗となって行く。
 引揚者や浮浪児の社会復帰に対しては、政府は大予算をさいて、正面から当らねばならぬ。ヤミ利得などを追う前に、戦争利得をトコトンまで追求して、復興に当るべきであった。これを要するに、道義のタイハイも、その発頭人は政治のむじゅん貧困と言わねばならぬ。

     青年は信頼すべし

 学生窃盗団、ダンスホール御乱行組、学生への非難の声もにぎやかである。
 この戦争の初期のころにも、兄弟たちが戦時に血を流し、工場に農村に同胞が全力をつ
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