くしているのに、学生は野球にふけり、映画見物に憂身をやつしている。学生といえば国賊のように罵られて、時局認識がないことを叩かれていたものであった。
 そのうちに学徒出陣というようなことになり、学徒挺身隊の出動となり、戦地に工場に学徒の戦果がつたえられ、昨日の国賊があべこべに救国戦士の第一線におかれて、新聞の記事は学徒の謳歌で賑うこととなった。
 あの年齢は、時代に敏感で、最も順応的なものであるから、学生の行状はこうだ。不勉強で遊んでばかりいて怪《け》しからん。そういう非難が風潮をなすに至ると、学生自身がその風潮に自分を似せて、それを合理化しようとするものだ。悪い学生はいつの時代にもいるのであるが、一部のために全部が汚名を蒙って、そのために、他の学生まで、それに似せ、それを合理化しようとする。輿論は屡々《しばしば》かかる罪を犯しがちなものである。
 特に今日のような畸型な社会生活の上では、学生というものが、畸型になるのは当然で、父兄が俸給生活者である限り、学費は十分では有り得ない。学生は父兄のヤミに依存するか、自らのヤミで自立するか、畸型化せざるを得ない筈で、一般の給料が家族の食費にすら
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