も私がはじまりだ。
私がたのしみにしていた胸までの深さのところは、水底の変化で、ようやく膝を没する程度の深さでしかなくなっていた。しかし、この水の冷めたさは、冷水浴になれた私に、最上の適度であった。冷めたすぎず、また、ぬるくもない。
しかし、私は目当の場所を往復するのに、何回ひっくりかえったか分らない。川底はタクアン石大の石で敷きつめられているから、足を踏みすべらしてしまうのである。それから三日あと、よほど催眠剤がきれたようですね、と高橋が云った日に又水浴にでむいた時には、なるほど、もはや転がらなかった。
第一日目と第二日目の記憶がモウロウとしている。第二日目は、早朝に長畑さんが手術のために東京へ戻り、私たちは南雲さんの案内で、一碧湖《いっぺきこ》へ遊びに行った。私はこゝでも水浴をやったが、湖底が泥土で足クビまでめりこみ、おまけに水のなまぬるさ、湖水などとは思われない。第三日から温灸をはじめ、第五日目に青山二郎のヨットをかりて遊んだ。私がヨットに乗ったのはこれがハジメテであった。
しかし、ヨットによって猛烈に紫外線をあびたことゝ、催眠薬の作用がきれてきたせいか、この日から、終夜
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