タリ漫才の二人組とは逆なことを言うのである。二人組の言うこと、為すこと正気の沙汰ではないから、
「どうだい。あんた方、催眠術というものを知っているかい。オレがあんた方に催眠術をかける。あんた方がオレに温灸を施す。どっちが利くか試合をやろうじゃないか」
「催眠術って、ねむらせるんですか」
「眠らせもするが、もッと、ハデにやろうじゃないか。別に火や水を使うワケではないが、オレが術を行うだけで、あんた方の全身、火に焼かれているように熱くしたり、凍ったように冷くしたり、してみせようか」
 火の玉も師匠の婆さんも、にわかに面色が改まって、返事をしなかった。
 その翌日、もう来なくともいゝと電話をかけさせたのに、やってきて、今日は今までとは別な特別のネリ薬を持ってきたから、と、女房にしつこく云う。来るなと云えば、ハイ、サヨナラ、どころの話ではない。むりに温灸をもしはじめて用意にかゝった様子であるから、私が隣室から、
「もう来るなと電話で云った筈だよ。なんべん来ても、ハイ、サヨナラ」
 と、ひきとらせた。それでも諦めず、一時間ほどすぎて、日蓮の婆さんを差し向けてよこした。この婆さんの方に私が好意を持
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