かも知れぬ。ここをやると眠くなる、と、頭のテッペンや頸筋へも温灸をやった。
「これをやると赤血球白血球一万ふえる。何よりホルモンが貴重な薬を通じて移るから、これをやると、女が十人あってもまだ足らないというほど精力が溢れる。あんたの頭は毛が薄いが、ハゲは三日で、黒い毛が生えるようになる」
大きなことばかり云っている。どうせ医者の薬も治しゃせぬ、という病気に憑かれてのことであるから、これも余興、朝晩四日やった。一向に効き目がない。睡む気もさゝないのである。日蓮の婆さんは温灸をやりながらアンマをしてくれるし、師匠の婆さんは温灸が終ってから、足や背中やクビ筋などを足でふむ。いずれもツボをはずれていて、何をやっているのやら、バカバカしいものである。
朝は日蓮の婆さんが肝臓をやり、夜分は師匠と火の玉が睡るための温灸をやりにくる。日蓮の婆さんは温和で、気違いじみたところや、宣伝めいたところがなく、
「奥さんのミズムシは長くかゝりますよ。タテ孔のできたミズムシはタチが悪いですよ」と正直なことを云ったり、私の肝臓については、
「旦那さん、肝臓にお酒は悪いですよ」
と、当然なことをマジメに言う。ハッ
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