この弟子は、むかしは生長の家の信者であったという。師匠はこの弟子を「火の玉」とよんでいた。もう一人は温灸をやりながらアンマをとる婆さん弟子で、昔は日蓮の信者だという。この方はおとなしかった。
 火の玉は居合わした人々の人柄から判断して、胸の病いと性病患者がいる筈だと判断したようである。万事がこの伝でカケアイ漫才をやりながら、サグリを入れたり、ミズをむけたりするのであった。
 私は私の病気を案じて附き添ってきてくれた高橋正二という商船学校出身のイキのいゝ青年に、
「君はジン臓が悪いそうだから、やってもらえよ」
 高橋はお灸がすきなのである。むかしジン臓を病んだことも事実であった。
「そうですね。じゃア、やってもらいましょう」
 しかし老婆は、見るからに健康児童の高橋を病人とは見なかった。ちょッと背へ手を当てて、
「この人は、こゝにいる人たちの中では第一番に健康。私は診察せなんでも、一目見れば、アヽ、この人はどこが悪い、ピタリとわかる。この人は、こゝに弱点がある。この尾テイ骨、こゝのところへ温灸を当てなさい」
 火の玉は灸をあてながら、
「この先生のお灸も大したものだが、又、足でふむアンマ
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