ミナリが私の周囲をかけめぐるようなバクゲキがつづいた晩は息がつまったね。けれどもバクゲキが終ると、まず穴から首をだして形勢を眺め、つづいて隣りの被害を見物し、規則正しい大きな波のウネリのようなバクダンの穴ボコの行列と、その四周の吹きとばされ、なぎ倒された家々のウネリと、壁や柱や屋根やハメ板のゴチャマゼの中の首や足などを見て歩く。なんの感情もない。その首や足が私でなかったというだけのことだ。はるかなキリもない旅をしているような虚脱の日々があるだけのことだった。
 焼夷ダンに追いまくられたのは、夜三度、昼三度。昼のうち二度は焼け残りの隣りの区のバクゲキを見物に行って、第二波にこッちがまきこまれ、目の前たッた四五間のところに五六十本の焼夷ダンが落ちてきて、いきなり路上に五六十本のタケノコが生えて火をふきだしたから、ふりむいて戻ろうと思ったら、どッこい、うしろの道にもいきなり足もとに五六十本のタケノコが生えやがった。仕方がないから火勢の衰えるのを待ってタケノコの間を縫いながら渡っていると、十字路の右と左に、また五六十本のタケノコがいきなり生えた。見まわすと、百米ぐらいまでの彼方此方の屋根にバラ
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