はしないのだが、強い酒をおまけに分量が多すぎる、私は胃をやられてしまつた。
 その頃からカストリ焼酎といふものが流行して、私もこれを用ひるやうになつたが、私のやうに催眠薬として酒を飲むには現在の日本酒のやうなものは胃がダブダブ水音をたてるほど飲んでも眠くなつてくれないからダメなので、カストリ焼酎は鼻につく匂ひがあつて飲みにくいけれども、酔へる。それに金も安く、メチルの方も安全だ。
 なぜメチルが安全かといふと、私がカストリを用ひるやうになつたのは東京新聞の人たちに誘はれたのがもとで、彼等は十杯ぐらゐづゝ連日飲んでゐる猛者《もさ》ぞろひだから、それで死なゝければ安全にきまつてゐるといふ次第、それで私は上品なる紳士ぞろひの中央公論の人たちなどからカストリ飲んで大丈夫ですか、ときかれるたびに、大丈夫々々々、東京新聞から死人のでないうちは大丈夫、そしたら私も気をつける。まつたく東京新聞は私のメチル検査器だ。
 あるとき私は酔ひつぶれて東京新聞のヨリタカ君のところへ泊つたことがある。私は未明に起きて、彼らが目をさますまでに雑文一つ書いた。それから少し酒をのもうといふので、近所のおそば屋にウヰスキ
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