り何万分の一を選びだしたのだからである。選ぶといふことには、同時に棄てられた真実があるといふことを意味し、僕は嘘は書かなかつたが、選んだといふ事柄のうちには、すでに嘘をついてゐることを意味する。嘘と真実に関する限り、結局、ほんとうの真実などといふものはなく、歴史も現代もありはしない。自分の観点が確立し、スタイルが確立してゐれば、とにかく、小説的な実在となりうるだけだ、文学は各人各説で、理窟はどうでも構はないのだ。要するに、歴史に取材した小説を書いても、それが一つの小説的な実在となる力があれば結構だと僕は思ふ。現代小説も亦然り、である。真実とは何ぞや。犬が西向きや尾は東、誰も文句は言へやしない。



底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房
   1999(平成11)年3月20日初版第1刷発行
底本の親本:「現代文学 第五巻第二号」大観堂
   1942(昭和17)年1月31日発行
初出:「現代文学 第五巻第二号」大観堂
   1942(昭和17)年1月31日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2008年9月16日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インタ
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