たくさんゐるから馬鹿にマラソンが強いので、特に団体競技、駅伝競争となると人材がそろつてゐる。けれども車夫といふものは走り方に隠されぬ特徴があつて手の置き場が妙に変つてをり、又、脚のハネ方にもピンと跳ねて押へるやうなどこか変つたところがあつて、見てゐるとハラ/\する。負けた学校からも投書があつたりして、せつかく貰つた優勝旗をとりあげられたことがあつた。私の安住できる学校はこんなものである。
 かういふ私にとつては生れつき兵隊ほど嫌ひなものはなかつたが、然し、私は凡そ戦争を呪つてゐなかつた。元々芸術の仕事といふものは、それ自体が戦争に似てゐる。個人の精神内部に於ける戦争の如きもので、エマヌエル・カント先生も純粋理性批判に於てさういふ表現を用ひてゐるが、ともかく芸術の世界は自らの内部に於て常に戦ひ、そして、戦ふ以上に、むしろ殉ずる世界である。私のやうに身の程もかへりみず、トンボか、せいぜい雀ぐらゐの才能しかないくせに、鷲か鷹でなければ翔べない山脈へあがらうといふ。その無理はよその人が見て考へるよりも本人自身が身を切る思ひで知つてをり、朝に絶望し、夕べにのたうち、鷲や鷹につかみ去られて食べられ
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