れから(プルウストの招待客はしよつちう同じ献立を食はされるのです。彼の健康に順《したが》つて多少の変化はありますが、客人の健康に順つて変化された例はありません)え。私の食べもの? 私は何もいらない。あ。さうだ。水を飲まう。それから、珈琲も飲まうかな。もし許して頂けるなら、珈琲を何杯も何杯も飲みたいな。
 そこで私達は席につきました。
 ――お願ひですから、袖口にセーターがのぞいて見えても、お気にとめないで下さいよ。みんなセレストの奴が行きとどかないせゐなんです。
 暫くして、突然彼は立上つて、支配人のところへ出掛けて行きました。すつかり声まで改まつてゐるのです。彼は自分の名刺を差出しました。
 ――君済まないがこの名刺を夫人の背後に陣どつてゐる紳士諸君に渡して頂きたい。あいつ等は断じて我々と同席するにふさわしくない。どうも、我慢するわけにいかん。無礼きはまる。
 私は立上らずにゐられませんでした。
 ――いつたい、どなたのことを言つてるんです。マルセル。
 ――あすこにゐる外国人の奴等め、あなたが誰方か知らないんです。あいつら、あなたの悪口を言つてるんです。私と同席してゐるといふので。
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