仕方がありませんけど。シロへ行くんです。あすこの料理はとてもしつかりしてゐると聞いたものですから。あなたはいつも夜会に私を招待して下さるから、今夜は私も御礼に……ありがたい。風をひくといけませんよ。私のカラーなんか見ちやいけませんね。どこか間違つた服装をしてゐれば、それはもうセレストの奴がした業に違ひないんです。あいつときたら、きまつて私に恥をかかせようとするんだから。あ。いいえ、タキシはお呼びにならなくともよろしいんです。ちやんと私のが下に待つてる筈なんですから。足の冷めたさは御心配なさらなくともいいんですよ。車の中にちやんと毛皮を用意しておきましたから。……いや、まつたく。こんな妙な服装をした男と外出なさるのは、あなたの恥かも知れないな……
 私達は真暗な人通りない巴里を走つて、またたくうちにシロへつきました。
 ――君。と、プルウストは支配人に言ふのです。夫人のために一番いい席をこしらへて下さいませんか。出来のいいシャンパンをすぐ冷やして……いえ、いえ、ぜひこいつを飲んで頂かなきや。今晩は私を悦ばすためにぜひこれを飲んで頂きたいんです……それから白葡萄酒にヒラメの鰭肉を落して。そ
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