まる身分ではないが茶道の教室をひらいて近所の娘たちに教えており、大そう礼儀をやかましく云う人である。かねて唐七が粗野なところがあるために見かねるような気持があったところへ、このたびオナラ成仏の功徳をたたえてみだりにハシャギすぎたフゼイがあるので堪りかねてしまった。隠居の葬式を境にして夫婦不仲になり、はげしい論戦が交されるにいたり、娘たちもソメ子について、唐七の旗色はわるかった。ために葬式が終ると春山家のお奈良さまに対する扱いは打って変って悪くなり、唐七は距てられてか姿を見せることが少くなった。そのあげくソメ子はお奈良さまにこう申し渡したのである。
「このたびの葬式では晴れがましくオナラを打ちあげて賑わして下さいまして、めでたく祝っていただきましたが、私はどういうものかお通夜や告別式はシミジミとした気分が好きなタチでしてね。初七日以後は私の流儀でシミジミとホトケをしのばせていただくことにいたしますから、読経の席ではオナラをつつしんで下さいませ。さもなければ他の坊さんに代っていただきますから」
手きびしくトドメをさした。しかし、言葉のトドメは彼の心臓を刺したけれども、例の戸締りにトドメの
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