ず、いきなりサヨナラと言つてクルリと振向いてしまふ方が、宇野さんのためにはいいのだらうとちよつと思つた。然し私の喋りまくつてやらうといふ牢固たる決意が、反撥的にグイと前面へのりだしてしまつたのである。
 私は上り框の座蒲団へ腰を下した。牧野信一の自殺に就て微に入り細にわたり、あることないこと取りまぜて立板に水を流すやうにまくしたてた。自分乍らよく喋るなと思つた。だいたい上り框へどつかと腰を下して、雨にぬれた裾を片手にまくりあげ膝小僧を露出させたりしたら、これはもう芝居のゆすりか借金取りの構へで、ちやんと喋るやうにできてゐるのである。私はたうとう喋り勝つてしまつた。
 自殺に関する話だから、話は勢ひ最も露骨な性生活に及んだりする。私は図に乗つてそんな余計なことまで勢ひこんでまくしたてた。
 台所の方に奥さんの気配があるので、その話になると、宇野さんは突然声を細くする。私もつりこまれて声を細くすると、いや、あなたは大きな声で、といふ目配せを慌てふためいてするのである。
 三四十分で話をきりあげ、私が立ち上ると、宇野さんはホッとした顔をした。外へでると雨は小降りになつてゐたが、まるでそれが人
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