やア、社へ行ってねエ、先生ンとこで三時間ネバって来たんだって威張るんだア、みんな同情してくれらア、アハハア、すまないなア、なーんてネエ。でも、先生、そんなのウソよウ。ねえ、先生。私の顔が見たいのよウ。わかってらア。ネーエ、セーンセ」
 そんな話のうちは、まだ良かったが、ある日、いったん別れたあとで、追っかけてきて、
「先生、どちらへ、ゴ散歩ウ? 私も一しょに行きますわよウ。おイヤ? あらア、そんなことないでしょう。アラマ、エヘヘ、言ッチャッタワヨ、アハハ、バカネ、チェッ!」
 マッカになってオデコをたたいたり、舌をだしたり、そんな忙しい合間に、私に、一段目、二段目、三段目ぐらいまでナガシメをくれる。
「私ね、先生、ちかごろ、小説かいてんのよウ。それが出来たら、遊びに行くわア。読んで下さるウ。私、ヘタよウ。でもネエ、ちょッとしたもんだわア。エヘヘ。おかしくないですかア。おかしいですかア。アラ、イヤだア、キャーッ」
 小説書きというものは、はからざるところで、この脅迫におびやかされるものであるが、この時ばかりは、私も心胆がつめたくなってしまった。
「それ、私小説?」
 と、私がきくと、とた
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