んにマッカになって、身をくねらせて、
「あらア、先生、イヤだわア。あら、ワタシ、ハズカシイ。先生たら、私小説だなんて、あら、そんな、まア、ハズカシイ。あらア、セーンセ。イヤよウ。ヒドイことよウ」
 大変な騒ぎで、こゝで又、四段目から、五段、六段目ぐらいまでナガシメをいたゞく。忙しい合間に、なるほど、ナガシメだけは、よく、うごく。
「なぜ、はずかしいの」
「だって、先生、あらア、先生、エロだわア。まア、先生、キャーッ。私小説だなんて、自分のこと、書かせるのウ、私にイ。あらア、キャーッ。あんなこと、書くなんて、まア、セーンセ、私にも書けって言うのウ、アンナコトウ、まア、エロだア、キャーッ」
 マッカになって、身悶えて、声が秘密をさゝやくように低くなるかと思うと、にわかにキャーッと脳天から立ち昇り、行き交う人々が呆気にとられ、私をユーカイ犯人のように険しい目で睨むから、私も困ってしまって、
「ねエ、君、わかった。小説、できたら、持ってきて下さい。じゃア、さよなら」
「あらア、先生、ひどいわア。一しょに、お茶ぐらい、のみましょうよ。私と一しょじゃ、はずかしいのウ。あらア、誰も恋人だなんて、思わ
前へ 次へ
全20ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング