はデクノボーさ。ゼンゼン、センスがありゃしない」
 と、大変な見幕で怒りだしたそうであった。以上がお魚女史の第一回目の訪問のアラマシである。

          ★

 第一回の登場ぶりが凄かったから、連日の来訪に悩まされることになるのかと怖れをなしたり、内々は待ちかねるところがあったりしていたが、一向に現れない。
 三四度、道で会った。すると、アラア、先生、コンチハ、オハヨウ。アラ、イケネエ、シマッタ、などゝ、慌しく取りみだしながら、喋りまくるのは、第一に弁吉の悪口である。
 弁吉は毎週三日ぐらいずつお魚女史を訪問しているのである。そのツイデに、稀に私を訪ねて女房とムダ話をして行くのだが、そんなことはオクビにも出さない。
「弁吉はアツカマシイのよ。ヨーカンおくれよウ。カステラくれろよウ。旦那が来てる時でも、平気なんですよウ。オタノシミだねえ、ハハハア、なんて、ニヤニヤ三時間も腰を上げないんですよウ。あんな子、イヤだわねエ。オ弁当もって来て、ウチでオヒルたべて行くのよウ。先生のウチへ原稿をサイソクに来ていることになってんだけど、行ったってムダだからネエ、こゝに遊んでる方がノンキでいゝ
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