馬脚を現したから、安心して、喋りはじめた。
「私はねエ、ご近所へ引越してきたんですのよ。防空壕なんですのよ。それでもチャンと屋根があって、上下左右コンクリートで厚くぬりかためてあるでしょう。陸軍中佐のウチでしょう、セメントぐらい自由だったんでしょう、四畳半以上もあるでしょう、いゝものよう。遊びにいらしてネエ。私、オメカケなんですよウ。今は、その方がいゝわねえ。旦那は六十三なのよウ。年寄の方がいゝことよ。人間みたいじゃないでしょう。ドラムカンだのアキビンだの、そんなものと大して違いはないものなのよ。人間なんか、いやらしいわね、ねえ、先生。先生も、エロですかア。アラ、いやだア、キャーッ」
その防空壕なら、私もよく知っていた。この界隈随一の名題の壕で、戦争中は岡焼き連の悪評高く、バクダンに追いまくられていた私なども、フテエことをしやがると横目に睨んでいたものであった。
疲れきっていた私は、酔っ払って、先に寝床へもぐって眠ってしまったが、弁吉はお魚女史を送って、防空壕まで参観に赴いたそうだ。
すると、井戸が遠くって、拭掃除ができなかったのよウ、と云って、弁吉にバケツの水を運ばせて、コンク
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