ン、そうなんだ、キミはむしろ利巧なんだネ、キチガイに類することが、その証拠なんだヨ。美人だからなア。美人はすでにキチガイじゃないんだ。美はねエ、それ自身、正常それ自体ですよ、ねエ、そうなんだよ。ハハハ」
 と、弁吉は悠々として、たじろがない。佐野龍代女史は動物園の玄関番の怪獣ぶりにムッとした様子であるが、チンピラがこの有様では、目ざす猛獣の習性が予測しがたくなったらしく、柄になく沈黙している。
 女史は二十六だそうだ。弁吉がカブトをぬいだのは尤もで、こんなとゝのった美貌が地上にいくつと有るものじゃない。色の白さ、リンカクの正しさとあざやかなこと、彫刻と申すほかに仕方がない。着物もたしなみのある着附で、品がよく、うつむきがちに沈黙していると、いかにも、ゆかしく、つゝしみ深く見えるのである。そのくせ、いったん、口をひらくと、ガラリと一変して、頓狂で、騒々しい。
 弁吉は、海のねエお魚みたいに喋るんだよ、と云ったが、ナルホドねエ、魚が喋ったら、やっぱりガラリと一変して、頓狂で、騒々しくなるのかも知れない。
 お魚女史は猛獣の正体が判らないから、はじめは澄していたが、まもなくお酒が廻って、私が
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