の催眠薬なんだ。あなた、のむの? ついであげようか」
「この子、キチガイなんですかア。先生」
と云って、女は私にニッコリ笑いかけた。私はバカらしくなって笑いだしたが、弁吉は大喜びで、
「ボクねえ、松沢病院へタネとりに行ったことがあるんだよ。そしたらさ、患者がねェえ、あっちの窓、こっちの窓からボクを指してさ、キチガイ、キチガイって笑いやがんのさ。あなた、なんて云うの? ア名刺があったネ、佐野龍代クンネ、龍代さんは香港で入院していたの?」
「イヤらしい子ネ。先生たら、文士なんか、なんですかア、先生のお弟子なんて、みんな、こんなキチガイなんですのウ」
「ハッハッハ。ボクはキミ、健全な人間なんだ。日本人的でないだけなんだよ。香港なんかも、人間はいないよねエ。田舎だからネ」
「香港、香港、て、さっきからネゴトばっかり言ってるわね」
「香港じゃア、なかったの」
「バカなんですよ、アンタは。アンタみたいなチンピラが、編輯長だの、詩人だのッて、それで私が香港のスパイのッて、からかってるのが判らないの」
「これは、イケネエ。ハハハ、その手があったかネ。まんざら、キチガイでもなかったんだネ。じゃアネ、ウ
前へ
次へ
全20ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング