だからネ。だけどネ、ちょッと、モッタイをつけてネ、待たしてやるのも面白いんだ。だってさ、あなた何してんのッて訊いたらさア、アンタなんかゞヨケイな事を訊くんじゃないよッてねエ、ハッハッハ、香港から引揚げてきたんだってさ、香港でスパイをやってたッてねエ、日本軍のじゃなくってさ、聯合軍の手先きでねエ、日本の将校を手玉にとってたなんて言いやがんだもの。日本人はダラシがねえんだッてさ。ツマラネエんだそうだネ。だもんでネ、先生がネエ、いくらか変ってるんじゃないかと思ってネ、見物に来たんだそうだよ。手ブラで来やがんのさ。包みをかゝえているからネ、それ手ミヤゲって訊いたらネ、オヒルのお弁当だってさ。動物園にもあきたんだろうネ。アハハ。キチガイかも知れないネ」
と、私の返事など気にかけるところはミジンもなく、悠々ととって返して、女をつれてきた。
「コンチハア」
と部屋の入口で女は奇声をあげたが、キチンと坐って三ツ指をついて、きわめて礼儀正しくオジギをした。
「アハハ。入場料のいらない動物園てのが、あったんだねエ。アハハ」
と、弁吉は悦に入って、
「今ね、日本産の河馬がねェえ、お酒をのむからね、徹夜
前へ
次へ
全20ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング