ろだろう。本来なら撃退しなきゃアならないんだけどねえ、そこんとこを何とかしてあげるッてネ、恩をきせてネ、ハハハ、約束しちゃったんだよ。だからさ、会ッてやっておくれよ、ねえ。アレ、ちょうど、いゝや。原稿、できてらア。ハハハ、うまく、いってやがら」
 そこへ食事の仕度を運んできた女房と女中が、弁吉を見ると、テーブルへガチャンとお盆をおいて、腹を押えて笑いころげた。
「ハハハ、あれを立ちぎゝしたネ」
 と笑いのとまらない二人の女を見下して弁吉はニヤリニヤリ、
「ハハハ、ボクがね、あなた小説かいてるのッて、きいたんだ。するとねエ、アンタ、書生? 玄関番? て訊きやがんのさ。ボク、編輯長ですよッて言ったんだ。オドロカねえのさ。だもんでネ、ボクねエ、本当は、新人のねエ、一流のねエ、詩人でねエ、ペンネーム教えてあげようかッてねエ、アハハ、ほんとに訊かれちゃったら誰を名乗ってやろうかと思ってさ、ちょッと困っていたけどさ、アハハ、テンデ訊かねエや」
 二人の女は益々笑いがとまらなくなったが、弁吉は悠然たるものである。
「あんまり待たしちゃ気の毒だから、じゃア、つれてくるかネ。応接間はネドコがしきっぱなし
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