るが、さすがに先生方は札束をおだしにならない。女房はフと気がついて、ノボセ気味にイソイソとお札を数えて束にして、
「ハイ、凹井さん、ハイ、般若さん、ハイ、弁吉さん」
損をするのは、私ばかりじゃないか。弁吉は札束を握ると、膝をのりだして、
「よウし。ボクが、もうけてやるよねえ。ハハハア」
「インチキはいけないよ」
お魚女史は凄い一睨みを弁吉にくれて、それから、とたんにニッコリと、片手に二ツ、片手に一つ、ピースの箱をとりあげた。
「コレ、ワカル。ヨク、ワカルネ。ヒトツ、アナ、アルヨ。ヨク、ミル。ワカルネ」
ヒラヒラと手先を廻し、テーブルへ置き並べ、置きかえる。
「オカネ、ダス。アナ、アル、アタルネ。オカネ、アゲル。コレ、アナ、アル。アナ、ナイネ」
一同、同じ一つへ、はった。女史がその箱をひッくりかえす。アナがない。女史はサッサと札束をつかんで、帯の間にはさんだ。
「ふウむ」
弁吉が、怪しそうに残る二ツの箱をにらんでいたが、手をのばして、一ツずつ、ひっくりかえした。私も怪しいと思ったのである。然し、一ツ、アナのある箱がタシカにあった。
お魚女史は軽蔑しきって、弁吉の手を押しのけて
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