、箱をつかみあげて、サッサとそれもフトコロへ入れてしまった。
 女史はテーブルを取り去った。それから、フロシキ包みをといて、リンゴをつきさした竹の棒と、まるい紙をとりだしてきた。デンスケである。組立てができると、碁盤をひきだしてきて、腰を下して、
「デンスケですよウ。いゝですかア。奥様、今度は、シッカリねエ。廻しますよウ」
 クルクル廻りだす。女史はサッと身構えて、紅潮し大口をあいたと思うと、
「張った、張ったア、さア、張ったア。張って悪いはオヤジの頭ア。張らなきゃ食えないチョーチン屋ア」
 とんでもない大声をはりあげる。外は嵐だから、いゝようなものゝ、はずかしくて、とても聞いていられない。私はねむくなったので、先にひきあげて、ねむってしまった。
 私の家にはフトンが二人ぶんしかないのである。夏なら何人でもお泊めできるが、春さきの嵐の日では、一人だけしか泊れない。御三方の帰る電車は、もう、なくなっていた。そのころは、節電のため、終電が早やかったのである。
 お魚女史は我が意を得たりと御三方を防空壕へ案内し、夜の明けるまで、デンスケと三つのピースの箱をやった。御三方は、スッテンテンにやら
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