ダメよウ。でも、よかったわア。坂口先生お一人じゃアなんだか、悪いようだものウ。凹井先生と般若先生が居合して下さるなんて、素敵ねえ。先生方は、お金持ちでしょう。裏口営業の常連なのよウ。御存知だわねエ、こんなことオ」
 三ツ並べたピースの箱を裏がえしにして見せた。まんなかの一ツの箱の中央がむしりとられている。ちかごろマーケットなどで流行しているトバクである。
「アラ、奥様ア、すみませんですウ。先生の紙入れ、持ってきて下さいませんことウ。ほんとに、すみませんわ。私、貧乏なんですもの、つらいですわア。あらア、ほんとに、まことに、恐れ入りましたわ。奥様もハッて下さいね。だって、奥様ア、私、ほんとに、つらいんですわ。ねえ、先生方、一回、お一人、五百円の賭け金よ。いゝですかアやりますよウ」
 私の女房が、これ又、トンチンカンではオクレをとらないタチの女で、バカらしいことは、忽ち相好をくずして、一役買ってしまうのである。イソイソと紙入れをひらいて、五百円の束をつくって、
「あらア、もういゝの。えーと、コレダ」
「アラ、まだヨッ。キャーッ。ワーッ。まだ、まだ、キャーッ」
 二人の女は忽ち目の色が変ってい
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