た。口惜しまぎれに、酒をのませないコンタンかな、と私も呆気にとられていたが、凹井がゲタゲタ喜悦の笑いを吹きあげて一膝のりいれると、折から酒肴の取り払われたテーブルをチョイとひいて、ドシンと凹井の胃袋にぶつけたのである。
「お痛くありませんでしたことウ」
 などゝ鼻唄みたいに呟きながら、尚もせッせとワキメもふらず、今度はテーブルをふいていた。
「ワッハッハ。そうですか。ケッケッケッ。二股のヒジはアナタにぶんなぐられたんですか。キャッ、キャッ、キャッ。ギューッ」
 再びテーブルが先刻以上の快速力で凹井の胃袋に突き当っていた。凹井は胃袋を押えて、もう一度、
「ギューッ、グッ」
 と呻いて、どうやら他人の気持というものが意識にのぼったらしく、てれかくしに笑いながら、いかにもミレンがましく沈黙した。
 お魚女史は嵐の中を何やら大きなフロシキ包みをブラ下げてきたのである。凹井の沈黙を見とゞけると、
「アラ、ごめんなさいネエ」
 とニヤリと笑って、フロシキ包みの中から、ピースの箱を三つとりだしてきて、テーブルの上へならべた。
「先生方、これ、御存知ィ。今度はじめた内職なのよウ。弁吉はお金がないから、
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