ナニ、ナニ? ワッハッハッア。ウーム、これは」
 こういうゴシップときては目のない凹井狭介である。この男には友人の文士どもが泣かされているのである。自分でゴシップをつくりだすという主犯の役目はやらないのだが、ひとたびゴシップがこの男の耳にふれたが最後、二日のあとには津々浦々に伝わっている。毎日三十枚のハガキを速達でだしている。それがみんな愚にもつかないゴシップを書いたハガキで、当人はただもう、それを人に知らせるのが楽しくてたまらないのである。十六の倅《せがれ》があって、十五の娘がある男の仕業とは、とうてい信じられないフルマイであるが、ゴシップとくると、タシナミも恋も忘れて一膝のりださずにはいられないという奇怪な男で、このときも、忽ちとりのぼせて、喜悦のあまり肩をワナワナふるわせながら、膝をのりだしてきたのである。
 すると、テーブルがグイグイッと動いて、彼の胃袋のあたりへドシンと突き当った。
「アラ、ゴメンあそばせ」
 と、お魚女史は事務的に呟いたゞけであった。彼女は弁吉の話の途中から、多忙をきわめていたのである。どういう目的だか判らないが、テーブルの上のものを、せッせと下へ降してい
前へ 次へ
全20ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング