憂いを深めて、思い思いに気を良くしている。弁吉だけは、ツキアイの深いせいで、女史の気質をのみこんでいるから、真相を見破ってニヤリニヤリたのしんでいる。
「龍代さんは知らねえのかな。凹井先生はねーエ。「キチガイ野球」ッて雑誌があるだろう。あそこの編輯長なんだア」
お魚女史はドキンとした様子である。何やら目から閃光を発して弁吉を睨みつけたようだが、弁吉は知らぬ顔、悠々たるものである。
「凹井先生は知ってるだろう。ホラネ。ダアク・キャットのピッチャーの二股長半ねーエ。あの子がねーエ」
「おだまり、チンピラ!」
叫んだところで、ムダである。
「アハハ。あの子がねーエ。この人のラヴさんなんだってさア。アハハア。するとネ。この人がネ。六十三のオジイサンのオメカケになっちゃったんだア。だもんでねーエ。二股長半が怒ってネ。酔っ払ってネ。この人をブッちゃったもんでネ。この人がネ。かねて見覚えた要領でさ。スリコギを握ッてネ。こう構えて、エイッとネ。そいつがコントロールが良すぎたんだなア。二股長半のヒジに命中しちゃッたんだよ。だもんでさア。去年の暮から二股長半がプレートをふまねえやア。アハハア」
「エ?
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