かいており、その横に弁吉がチョコンと坐って、ニヤリニヤリしている。
 お魚女史は、
「あらア、コンバンハア」
 と云って、目をまるくしたが、二人の曲者が凹井狭介に般若有効という文士で、私の友人だと云って紹介すると、にわかに懐しがって、
「あらア、愛読してますわア。あらア、あの新聞の小説ねエ。あれ、いゝですわア。お上手ネエ」
 凹井も般若も、新聞なんかに書いてやしない。デタラメなのだ。お魚女史は純文学などはロクに知らないから、凹井や般若の名前など知ってる筈がないのである。けれども、平然たるもので、
「先生方にお目にかゝれるなんて、私、光栄の至りですわア。でも、あらア、サスガだなア。サスガですわア。御立派ですわア。こちら、ふとってらッしゃるわねエ。こちら、お高くッて、まア、ホントにねエ。あの、失礼ですけど、こちら、何キロ、二十二三貫でしょう。アラ、そうですのウ、こちら、何メートル、ハア、あら、そう、まア」
 お魚女史は文学の話にこだわるとシッポがでるから、すばやく目方だの身長などへゴマカシたのだが、凹井と般若はそうとは知らず、美人におだてられて、凹井は相好《そうごう》をくずし、般若は沈々と
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