物をした」
と叫ぶと、お魚女史の手を払って、私は血相変えて、駈けだしていた。戦争中のバクダンのお見舞以来、こんなにイノチガケで走ったことはない。
その次に、路上で会ったとき、
「あらア。先生、先生たら、案外ウブだわねえ。あんなに、ハズカシがって、逃げだすなんて、そんなに、ハズカシイのウ。あらア。先生たら、マッカになったわよウ。あらマア、キャーッ」
御自分の方がマッカになって、身悶えて、又、私にナガシメをくれた。
★
お魚女史が二度目に私を訪ねてきたのは、春の嵐の夜であった。そのとき私の家には三人の来客があって、お酒をのんでいた。こんな嵐に人を訪ねてくるのは、多忙な記者でなければ、よっぽどヒマな怪人にきまっている。
一人は弁吉である。彼はお酒をのまない。元々ネジが狂っているから、お酒の必要がないのだろう。
あとの二人が一まわり大きな怪人で、だから、カラダも大きい。が甲羅をへて見た目は立派な紳士である。一人は凹井狭介という評論家で、一人は般若有効という小説家である。マルイのが凹井で、ヒョロ高いのが般若であった。曲者らしい大男が濛々と酒気をたてゝ大アグラを
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