とはすでに間違つてゐるのである。
私は女のからだが私の部屋に住みこむことだけ食ひ止めることができたけれども、五十歩百歩だ。鍋釜食器が住みはじめる。私の魂は廃頽し荒廃した。すでに女を所有した私は、食器を部屋からしめだすだけの純潔に対する貞節を失つたのである。
私は女がタスキをかけるのは好きではない。ハタキをかける姿などは、そんなものを見るぐらゐなら、ロクロ首の見世物女を見に行く方がまだましだと思つてゐる。部屋のゴミが一寸の厚さにつもつても、女がそれを掃くよりは、ゴミの中に坐つてゐて欲しいと私は思ふ。私が取手《とりで》といふ小さな町に住んでゐたとき、私の顔の半分が腫れ、ポツ/\と原因不明の膿みの玉が一銭貨幣ぐらゐの中に点在し、尤も痛みはないのである。ちやうど中村地平と真杉静枝が遊びにきて、そのとき真杉静枝が、蜘蛛が巣をかけたんぢやないかしら、と言つたので、私は歴々《ありあり》と思ひだした。まさしく蜘蛛が巣をかけたのである。私は深夜にふと目がさめて、天井と私の顔にはられた蜘蛛の巣を払ひのけたのであつた。私は今でも不思議に思つてゐるのであるが、真杉静枝はなぜ蜘蛛の巣を直覚したのだらう? こ
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