らおだてゝくれても自らを誤魔化すことがない。私とておだてられたり讃めたてられたりしたこともあつたが、自信の奴は常に他の騒音に無関係なしろもので、その意味では小気味の良い存在だつたが、これをまともに相手にして生きるためには、苦味にあふれた存在だ。
 私は貧乏を意としない肉体質の思想があつたので、雰囲気的な落伍者になることはなく、抒情的な落伍者気分や厭世観はなかつた。私は落伍者の意識が割合になかつたのである。その代り、常に自信と争はねばならず、何等か実質的に自信をともかく最後の一歩でくひとめる手段を忘れることができない。実質的に――自信はそれ以外にごまかす手段のないものだつた。
 食器に対する私の嫌悪は本能的なものであつた。蛇を憎むと同じやうに食器を憎んだ。又私は家具といふものも好まなかつた。本すらも、私は読んでしまふと、特別必要なもの以外は売るやうにした。着物も、ドテラとユカタ以外は持たなかつた。持たないやうに「つとめた」のである。中途半端な所有慾は悲しく、みすぼらしいものだ。私はすべてを所有しなければ充ち足りぬ人間だつた。

          ★

 そんな私が、一人の女を所有するこ
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