学などはやらぬことだ。
 私は食ふために働くといふ考へがないのだから、貧乏は仕方がないので、てんから諦めて自分の馬鹿らしさを眺めてゐた。遊ぶためなら働く。贅沢のため浪費のためなら働く。けれども私が働いてみたところでとても意にみちる贅沢豪奢はできないから、結局私は働かないだけの話で、私の生活原理は単純明快であつた。
 私は最大の豪奢快楽を欲し見つめて生きてをり多少の豪奢快楽でごまかすこと妥協することを好まないので、そして、さうすることによつて私の思想と文学の果実を最後の成熟のはてにもぎとらうと思つてゐるので、私は貧乏はさのみ苦にしてゐない。夜逃げも断食も、苦笑以外にさしたる感懐はない。私の見つめてゐる豪奢悦楽は地上に在り得ず、歴史的にも在り得ず、たゞ私の生活の後側にあるだけだ。背中合せに在るだけだつた。思へば私は馬鹿な奴であるが、然し、人間そのものが馬鹿げたものなのだ。
 たゞ私が生きるために持ちつゞけてゐなければならないのは、仕事、力への自信であつた。だが、自信といふものは、崩れる方がその本来の性格で、自信といふ形では一生涯に何日も心に宿つてくれないものだ。此奴は世界一正直で、人がいく
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